
「リーダーシップのある人」と聞いてどのような人をイメージしますか?絶対的なカリスマがあってメンバーを引っ張っていく人でしょうか。あるいは組織に新たなアイデアや変革をもたらし続け、自然と尊敬を集める人のことでしょうか。
しかし、リーダーシップが個人の資質に依存する時代は終わりました。例えば、スターバックスジャパンの元CEO、岩田松雄氏は自身をカリスマも、凄まじいほどのエネルギーもない「普通のおじさん」だと語ります。
その「普通のおじさん」が「最強のチーム」と呼ばれるスターバックスジャパンを作り上げた理由は、「リーダーシップ3.0」という新しいリーダーシップ像でした。
21世紀の新たなリーダー像、リーダーシップ3.0。この記事ではポイントを押さえながら、初めての方のためにやさしく解説していきます。
自分にはリーダーシップがない、あるいは自社にリーダーとなるべき人材がいないと考える方は、必見です。
「最強のチーム」を作り上げた「普通のおじさん」がとった行動とは
THE BODY SHOP JapanやスターバックスコーヒージャパンのCEOとして実績を上げてきた、岩田氏。
岩田氏は常に「何か困ったことない?」と部下に声をかけます。実は困ったことがないか尋ねるのは、権限を持つものにしかできないこと。部下の小さな「ヘルプ」を見落とさないことで、自然と信頼を集めます。
また、岩田氏は部下の話をメモを取りながら聞いてあげていたとも。コミュニケーションというと饒舌に語ることだと勘違いしがちですが、部下の話を受け止めてあげるのも立派なコミュニケーション。そのような部下への態度そのものが、何よりも雄弁なメッセージとなるのです。
そしてなによりも岩田氏が徹底していたのは、「謙虚」であること。自身をリーダーの資質などはないと言っていた岩田氏だからこそ、その姿勢を維持できたのではないでしょうか。
実は岩田氏が実行していたこれらの行動、すべてリーダーシップ3.0に基づくものだったのです。次章以降でそのリーダーシップ3.0について解説していきます。
今までのリーダーシップはどうだった?リーダーシップ3.0が生まれた背景
このリーダーシップ3.0を理解するには、今までのリーダーシップがどのようなものだったのか、まず理解する必要があります。簡単に図を使って説明します。
1900年〜1920年代に生まれた『リーダーシップ1.0』は自動車大量生産のフォード車に代表されるような、権力者が頂点に立つ、中央集権的な方法でした。欠点は、指示を行う人間が一人であるためにユーザーの多様化する要求に応えられなくなったことです。
それを改良したものが、1930年代〜1960年代に流行した、各事業所ごとに権力を分散させる『リーダーシップ1.1』。各事業ごとに権力を分散させましたが、閉塞的な縦社会が構築されることとなりました。
次の『リーダーシップ1.5』はメンバーの協調を図り組織を統率するやり方でしたが、内向きに働くエネルギーが大きすぎるためエネルギーが低下していくという問題点がありました。
『リーダーシップ2.0』は1990年代に生まれ、Appleのスティーブ・ジョブズやGEのジャック・ウェルチのように、組織の方向性を大胆に変換させるリーダー像でした。しかし、ひとりのカリスマに頼る側面が強かったため、意思決定のスピードが遅く、目まぐるしく環境が変わる現代においては遅れをとるケースが増加。
このような過去を受け、21世紀に新たに登場したリーダー像が、『リーダーシップ3.0』。価値観が多様化し、いくらでも働く企業を選べる時代だからこそ、従業員が自ら望んでこの会社で働きたいと思わせるようなリーダーシップが求められたことが背景にあります。
リーダーシップ3.0を具体的にイメージするにはピラミッドが最も分かりやすい例えです。今までのリーダーや経営者はチームメンバーの支える土台の上に立っていました。しかしリーダーシップ3.0ではリーダーこそがピラミッドの土台となり、メンバーの活動を支えるのです。
“支援者”としてメンバーを支えるリーダーシップ3.0。その実践のためにはどのような意識が必要なのでしょうか。次の章でさらに詳しく見ていきましょう。
では、リーダーシップ3.0とは?プロセスごとに特徴をつかむ
前提
リーダーシップ3.0は「自律した個人」の存在を大前提としています。自律とは他者からの支配や助けを受けず、自分の立てた規律にしたがって正しく行動すること。もし社員が人に頼りっきりだったり、上司の顔色ばかりうかがっている場合はその意識から改善する必要があります。
目的
リーダーシップ3.0の目的とは、チーム全体の能力を上げるために、個々のメンバーの能力を引き出すこと。メンバー各人は優秀なものを持っているのにそれを出しきれていないのは、チームに問題があるからです。リーダーシップ3.0は、メンバー一人一人が最大限に自分の力を引き出すことができる環境を作ります。
リーダーの役割
リーダーシップ3.0でのリーダーの役割は、個々のメンバーとの信頼関係を築くという点に集約されます。なぜなら、リーダーとの交流はメンバーのチームへのモチベーションを生むからです。
リーダーは信頼関係を築くために、毎朝メンバーに声をかけて調子を確認したり、仕事に正確なフィードバックをおこなったり、ときには腹を割って話すことが必要になります。人数が多くなるほど難しくはなりますが、これらの実践は特別な能力がなくてもだれでもできることです。
効果
リーダーと信頼関係を結び、自分の能力を最大限に発揮できていると感じたとき、メンバーは「働きがい」を感じます。働きがいを感じた社員は、ネットワークが発達し情報もたくさん得られる中でもあえてその場で働くことを選びます。
人材を、自社の欠かせない「人財」にするのが、リーダーシップ3.0なのです。
資質は関係ない。明日からだってできるリーダーシップ
これまでのリーダーシップと違い、リーダーシップ3.0には、個人の資質は必要ありません。自分にはリーダーの資質はない……そう思っている方でも、意識を変えるだけですぐに実行できるチームマネジメント術なのです。
まずは明日から、メンバーの話に少しでも耳を傾けてみてはいかがでしょうか。気付けば、信頼の厚い“リーダー”になっているはずです。
参考:小杉俊哉著『リーダーシップ3.0:カリスマから支援者へ』、岩田松雄著『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』
コメントを残す