
世の中にアドラー心理学ブームを起こすきっかけとなった、『嫌われる勇気』。
その続編が2016年2月に発売されましたが、あなたはもうチェックしましたか?
その名も、『幸せになる勇気』。
向上心があり、アドラー心理学をもっと知りたいけれど読書をする時間がとれない……。そんなビジネスパーソンのために、『幸せになる勇気』からビジネスで役立つ考え方を抜粋したダイジェスト版をお届けします。
アドラー心理学ってどんな考え方?
ここで、前作を読んだことがない、という人のためにアドラー心理学を少しおさらいしてみましょう。
アドラー心理学の特徴は、「すべての悩みは対人関係の悩みである」とした上で、過去の「原因」ではなく今の「目的」に沿って人の行動は決められると唱えていること。物事をシンプルに捉え、悩みを消し去るためのヒントを与えてくれる学問です。
前作の『嫌われる勇気』は、「嫌われる勇気を持ち、他人に認められたいという承認欲求を捨てることで人生を自分らしく歩むことができる」というのが結論。アドラー心理学全体を分かりやすくまとめた一冊でした。続編となる『幸せになる勇気』は、「人間にとって幸せとは何か?」という哲学的な問いかけからアドラー心理学を実践する上での行動指針がまとめられており、「愛」と「自立」が大きなテーマとなっています。
『嫌われる勇気』と同様に、この続編でも青年と哲人の会話形式で話は展開していきます。三年前、『嫌われる勇気』で哲人との問答の中で答えを見つけた青年は、小学生のクラスを受け持つ教育者となっていました。
なぜ叱ってはいけないし、ほめてもいけないのか
教育者となった青年は、アドラーの掲げる「ほめてはいけない、叱ってもいけない」という方針は机上の空論であると、3年ぶりに訪れた書斎で哲人に食ってかかります。実際の現場では、ほめられた子どもはやる気を出すし、叱られなかった子供は問題行動をエスカレートさせるだけだと。哲人の答えはこうでした。
「教育者は裁判官ではなく、子どもに寄り添うカウンセラーであらねばならない」。
「ほめて叱る教育」は、自分の価値観に相手を合わせようとすること。そして、その教育を受け続けると、人は「ほめてくれる人がいなければ、適切な行動をしない」、「罰を与える人がいなければ、不適切な行動もとる」というライフスタイルを身につけるようになっていきます。「ほめて叱る教育」は相手を「依存」と「無責任」に置く行為。そうではなく、自立を促し、相手が下した決断にどこまでも寄り添うのがアドラーの考えなのです。
“「それは自分で決めていいんだよ」と教えること。自分の人生は、日々の行いは、すべて自分で決定するものなのだと教えること。そして決めるにあたって必要な材料―たとえば知識や経験―があれば、それを提供していくこと。それが教育者のあるべき姿なのです。”
この場合の「教育者と子ども」の関係は、「リーダーと部下」の関係にも応用できそうですね。
協力原理の土台は尊敬によって作られる
哲人は、「ほめられること」が常態化すると、その共同体には「競争」が生まれると考えます。いかにして周囲よりも先に、たくさんほめられるか。そこで生まれる競争から、駆け引きなどの対人関係の問題が生じてきます。
そこで推奨されるのが「協力原理」であり、その入り口となるものが「尊敬」。アドラーのいう尊敬とはありのままのその人を認めることであり、相手をほめちぎることではないのです。
“目の前の他者を、変えようとも操作しようともしない。なにかの条件をつけるのではなく、「ありのままのその人」を認める。これに勝る尊敬はありません。”
職場の円滑なチームワークにも、「尊敬」は必要。ありのままのその人を認めることなら、明日から意識していけるのではないでしょうか。
「悪いあの人」「かわいそうなわたし」ではなく「これからどうするか」
哲人は人の心を表す三角柱を取り出し、一面は「悪いあの人」、もう一面は「かわいそうな私」だと言います。人が何かを語る時、ほとんどはこの二つの話に終始していると。では、最後の一面は何なのでしょうか。答えを知った青年は驚きます。
“われわれが語り合うべきは、まさにこの一点、「これからどうするか」なのです。(中略)あなたはいま、わたしの目の前にいるのです。「目の前にいるあなた」を知れば十分ですし、原理的にわたしは「過去のあなた」など知りようがありません。”
幸福に向けて本当に語り合うべきは、「これからどうするか」。過去の「原因」ではなく今の「目的」に沿って人の行動は決められると説く目的論の考え方が表れています。あなたの職場の愚痴は、「悪いあの人」「かわいそうなわたし」になっていないでしょうか。
その関係は「信用」なのか、「信頼」なのか
アドラー心理学では、すべての悩みは対人関係の悩み。裏を返せば、すべての喜びもまた対人関係の喜びであるということになります。本書では、私たちが幸せを手に入れるために3つの関係性と向き合うことが必要であると述べられています。
・仕事の関係
・交友の関係
・愛の関係
下に行けばいくほど人間関係の距離は近く、深くなります。仕事の関係とは「信用」の関係であり、相手を条件付きで信じる関係性。交友の関係とは「信頼」の関係であり、いっさいの条件をつけずに相手を信じる関係性です。
本書の中で哲人は、周囲といかに交友の関係を築いていくかが喜びへの道になる、そして仕事の関係ではなく交友の関係を築くためには、まず自らが一歩踏み出すことが必要だと話します。
“他者に「信頼」を寄せて、交友の関係に踏み出すこと。それしかありません。われわれは、仕事に身を捧げるだけでは幸福を得られないのです。”
職場での関係性を「仕事の関係」ではなく「交友の関係」と捉える。そうすれば、明日から職場の風景が変わって見えるかもしれません。
愛とは自立を目指し、ふたりで成し遂げる課題
哲人は、アドラーを理解するための階段は「愛」に踏み出すことで得られると言います。愛は「落ちる」ものではなく、もっと能動的なもの。本書では、これを「愛する技術」と表現しています。
人は、「誰かの役に立っている」という貢献感の中に幸せを見出すので、「愛の関係」は本来最も貢献感を感じられるもの。でも、他者を愛するということは、依存を捨て自立するということとイコール。それはとても難しいことだと哲人は言います。
“利己的に「わたしの幸せ」を求めるのではなく、利他的に「あなたの幸せ」を願うのでもなく、不可分なる「わたしたちの幸せ」を築き上げること、それが愛なのです。”
「愛されたい」ではなく、他者を「愛する」ことで私たちは自立し、本当の意味で大人になることが出来る。アドラー理論の中で愛とは、自立したふたりが力を合わせて成し遂げる課題なのです。
『嫌われる勇気』は地図、『幸せになる勇気』はコンパスとなる一冊
本書の著者である岸見一郎氏は、巻末で前作『嫌われる勇気』を「地図」、本作『幸せになる勇気』を「コンパス」と表現しています。前作でアドラー心理学に興味を持ったものの、実践していく中でつまずいてしまった人を導く一冊、『幸せになる勇気』。
今回紹介した以外にも職場やプライベートですぐに実践できるエッセンスが満載なので、まだ読んでいないあなたは是非手に取ってみてはいかがでしょうか。